「良夫君が投げるボールには、なんというかこう、浮力のようなものがありますな」

練習場へ差し入れを持って足をはこぶ都度、監督はそのように良夫のセンスを褒めちぎった。実際、良夫は足が速く背が高かった。

「お父さんに似たのでしょう。将来有望です」

バスケットボールのようにチームワークがものをいうスポーツでは、チームメイトに恵まれるか否かが出世の鍵を握っている。その店良夫は恵まれている方だった。まるで、職場にも仕事仲間にも恵まれなかった父親の反動を子が受けるかのように。

「父さん、バスケットボールのおかげで、容喙高校へ特待生として進学が決まったよ」

「そうか、父さんもうれしいよ」

次は大学だ。

「父さん、喜んでおくれ。インターハイで決勝への出場が決まった。しかも、僕がキャプテンだ」

――

「父さん、喜んでおくれ。これに勝てばオールジャパンへの出場権がもらえるんだ」

――

「父さん、喜んでおくれ。いよいよ大学への特待進学が決まりそうなんだ。選考会は明日で、試験監督が試合を見に行くといっている」

刻一刻と夢の終着駅が近づいてくる。いよいよ卓の念願が叶うところへ近づいていた。

しかしこれまで親子二人三脚で取り組んできたバスケットボールだが、後少しのところで夢が破れたのは、気負いのせいか、その試合当日、良夫は空中におけるボールの奪い合いに気を取られ、着地の際に気がつかず相手選手の足を踏んだせいで、足首を剥離骨折してしまったからであった。

進学が決まりかけていた大学は、怪我を理由に良夫の受け入れを当然のように拒否した。

本人よりも残念な思いをしたのは父親の卓だったが、直接努力を重ねてきた息子の前で哀しい顔は浮かべられなかった。最初は嫌がる息子の尻を叩いてまで取り組ませてきたバスケットボールだった。全ては息子の将来を思ってのことだが、スパルタ一本で貫いてきた父親のことを、こんな結果になって息子は恨んではいないだろうか。

怪我をした息子の体が心配だし、健康が一番なのは親としてホットしている。だが、毎夜枕をぬらす涙の源泉は、一体どこにあるのやら。

失意だの後悔だのが夜通し卓の胸や喉元を掻きむしるのであった。

「良夫、たのむからバスケットボールを嫌いにならないでおくれ」

「大丈夫だよ、父さん。僕、何があってもこれだけは続ける気でいるから。足で歩けないなら、手で歩けばいいんだ」
「そうだろ、父さん」
「良夫お前なんてことを………」





大阪福島にある豚の鍋と串の居酒屋とんさいやが生んだ新しい妖怪話。「カマイタチとノヅチと」







見るに見かねたカマイタチが彼をいよいよ斬りつけたのは、その夜の事だった。人の中に巣食う妖怪は、のちに鼬だけでなく生けとし生きるもの全ての存在を脅かしかねないのである。

カマイタチに斬りつけられた人間は、次の満月の日まで生死の間をさまよい続ける。その身に宿した妖怪が息絶えるのが先か、あるいは宿主の命が尽き果てるのが先か。それは鎌鼬にもわからないし関心を持ち合わせていない。ただ、人の中に救う妖怪を人と同時に斬りつけるのみである。

三日三晩生死の間を彷徨ったあと、良夫は病院のベッドの上で目を覚ました。

「父さん、僕、本当に自分でこんなことをしたのかい」

「……ともかく無事でよかった。お前を失えば、俺には他に何も残らない」

「こんなことをして、僕、父さんを傷つけやしなかったかい」

「何もなかったよ」

「じゃあ、どうして父さんもベッドで寝ているんだい」

「救急車を呼んだあと、俺も卒倒してしまったんだよ」

「ねえ、父さん、僕、やり直せるかな」

「もちろんだ、親子で頑張ろうよ」

「うん…わかった。でもところで父さん」

「ん。なんだい」

「僕の母さんはどこへいったんだろう。僕が小さい頃、出ていったっていっていたよね。生きているならまた会いたいよ。ねえ、どこに居るのか、父さんは知っていやしないのかい。知っているなら教えてよ。ねえ、僕の母さんは、一体どこで何をしているんだい?」

「………………」


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安くて美味いの代名詞♪
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