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鎌鼬と野槌

ピアノ妖怪 2



「そんな、殺すつもりなど……。だいいち、急に飛び出してきたのはそちらの方ではないですか」と声は云った。「それに、ハンドルを切り損ねていれば、こちらこそ危なかったんですから」

「……おや? 先ほどの人とは声が違う。もしや今わたしの鼻先をかすめた車の運転手さんですか」

「これは、これは、盲の方とはつゆ知らず。……しかし、それならばせめて杖ぐらいついて外を歩きなさいな、だって、サングラスをかけた姿で、手ぶらの恰好では、ごくありふれた健常者と間違えられても文句は言えませんよ、あなた」

「……視力のことは放っておいてくださいな」

さっきのは空耳だったとでもいうのだろうか。いや、そんなはずはなかった。小村には確かに目は見えないが、音を判別する機能だけは確かに耳がその役割を果たしてくれているはずだった。

言ってみれば、耳だけを頼りにこれまで暮らしてきた。実際、衣擦れの音や呼吸の音を頼りに近くに人が何人いるのかほぼ正確に判別できるし、人の身長や体格も声の響き方や息の深さでだいたいは判別できている。

人が歩く際に生じる靴の音で、地面の状態がどんな風になっているのかを判別できるし、道を走っている車の台数や道路の幅員も正しく判断することができる。

建物の中に入れば、音の反響から天井の高さがどれくらいあるのかが判るし、部屋の広さがどのくらいあるのかも判断できる。部屋の中にいながら、どのエレベーターがどの階で停まっているのかも言い当てることができるぐらい聴覚は研がれている。

だから目が見えなくても小村には杖など必要がない――。

「そうやって、休みの日には健常人のふりをして街に紛れ込むのが、唯一君の気晴らしになっているというわけか」

「やはりまた現れましたか。先ほどから何故わたしのあと追い回しているのです。なぜ、私を殺そうとなさるのです。あなたは、いったい誰?」

「子供の玩具売り場でおもちゃのピアノを弾くのがお前の趣味のようだな」

「…こうしていると気分が休まります。それが悪いことでしょうか。健常者のふりをしていたところで、誰かに迷惑をかけているわけではございませんよ」

「まだ死にたいかね」

「は?」

「君は昨日まで死にたいと思っていたのだろう。私としては不本意だが、君がどうしてもそう望むのならば、その願いをかなえてやってもいいが」

「へえ、ひょんなことを。同じ願いをかなえてくれるというなら、目がみえるようにしてやってくださいな。だったら、死にたいと思わないわけですから」

「それは叶えられない願い事だ」

「あ、は、は、は、そりゃ、そうだろうね」

嬌声を上げる盲人に、子連れの親たちが白い目を向けた。

「君が渇望しているのは視力などではない。真に君を求めてくれる人の存在だろう」

「へえ、なにを、知ったような」

「どうすれば君を必要としてくれる人が現れるか、知りたくはないか」

「あ、は、は、は」

弾いてごらんなさい、君が本当に好きな曲を。今、ここで。子供の好みそうなマーチばかりを、蚊の鳴くような小さな音で、まるで誰かのご機嫌をとるかのように奏でているのではなしに

「あ、は、は、は」

「わたしは、君が毎夜机の上に指を這わせているそのメロディに吸い寄せられたのだ」

「毎夜、僕のそばにあなたがいたとでもいうのか。だったら、どうして僕の研ぎ澄まされた聴力から逃れられたというんだい。教えてごらん。だいいち、僕がここで曲を弾いて、何かいいことが起きるとでもいうのか」

いいから弾くのだ。その、醜く潰れた両の眼も、隠さずにすべてさらけだしなさい。いま、すぐにだ。ここでいまより無様に殺されたくなければ



――――続く


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