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――続き。



「やあ小村君、久しぶりだね。あの頃とは見違えた生活ぶりだ。惨めな暮らしを抜け出して、いろいろな物を手に入れた感触はどういったものだ」

「やあ、こちらこそ久しぶり。といっても、あなたがいつも僕の近くにいるのは、これまでにずっと感じていましたよ。ただ、お話しをしてくれるのが五年ぶりに過ぎないだけで。して、あなたは一体何物なのですか。どうやら言葉を話す存在ではあるようですが、思うにあなたは、人間とはかけ離れた生命体に違いありません」

「どうだね、人には決して聞こえない声が聞こえるようになった気分は」

「質問の答えになっていませんよ」

「聞こえているんだろう? わたしの声が聴こええていると云うことは。君にはあの音色が聴こえているはずだ」

「…………まさかそれは、あなたの仕業というのではないでしょうね。あなたに会った日以来、毎日妙な音色が聞こえて止まないのです。止められるのならば、止めてくれませんか。頭が割れてしまいそうだ」

「では、また元のように、あの息苦しく狭い穴蔵のような部屋の中で、ただの孤独な盲人として朽ち果てたいとでもいうのかね」

「いやだ、それだけは、いやです。やっと抜け出した暗い洞窟なのですから」

「では今までどおり、ピアノを奏で続けるのだ」

言ったきり、声の主はもう何度小村が語りかけても返事をしなかった。

小村の描く曲と演奏は更に多くの人たちが待ち望んだ。

多くの人間が小村の楽曲を渇望している。

それに連れて、徐々にその音色がいよいよ言葉の形を成して聴こえるようになっていく――。雨の音でさえ音階となって把握される小村の耳だった。空間の奥行きや、人の相貌まで、空気の流れる音を頼りに想像することのできる聴覚であった。その聴覚は、五キロ先に住んでいる赤子の嚔一つ聞き漏らすことはない。

小村の耳は、その音色も一つ残らず聞き逃すことはなかった。

〝借金を返すまでの辛抱だわ。ここを追い出されると、次はどこの女郎小屋へ放り込まれるのか、わかったものではないんですから……〟

〝遣い道も知らぬくせに、盲人がたんまりと儲けやがって。字がかけないなら、遺書をこのあたしが代筆してやればいいのだわ。問題は、どうやってこの盲人を自然死に見せかけるかよね。ケ、ケ、ケ、ケ〟

〝何故この俺様が、こんな盲人の下で、木っ端みたくアシスタントに甘んじねばならぬのだ。ああ憎い、憎い、ああ疎ましい ああ妬ましい〟

〝しめしめ、金の遣い道を知らぬ盲人で、こちらの懐が随分と助かったわい。作れ作れ曲をもっと作りやがれ。フヒヒヒヒヒ、その調子、その調子、もっと高らかに演奏をするのだ〟

聴きたくもない音色が声になり耳へ飛び込んでくる。小村自身のことを渇望している人間などどこにも皆無だった。

その音色が聞こえて来れば来るほど、演奏中の小村の陶酔は一層深くなっていく。シンフォニーホールの中には、小村のピアノを渇望している人で溢れていた。

小村の音色は人が胸に閉じこめている欲望を解き放つ鍵の役割を果たしているようだった。

彼に音色に人々は幻覚の中で様々な疑似体験を愉しんでいる。その様子が小村には音色となって耳に届いている。

〝この音を聴いていると、まるで自由になったような気がしてくるのだ……〟

〝これで今夜、俺は悪魔に魂を売ることができるのだ……〟

まるで小村の演奏は人魚の子守歌のようであった。

あるいは果心居士による幻術であった。

あたりには、まるで麻薬の煙が充満しているようであった。

もはや小村の指が勝手にピアノを演奏している状態だった。
やめて。
やめて。
頼むから僕にもう、この曲を弾かせないでおくれ。




大阪福島にある豚の鍋と串の居酒屋とんさいやが生んだ新しい妖怪話。「カマイタチとノヅチと」



























見るに見かねたカマイタチが彼をいよいよ斬りつけたのは、その夜の事だった。人の中に巣食う妖怪は、のちに鼬だけでなく生けとし生きるもの全ての存在を脅かしかねない。

カマイタチに斬りつけられた人間は、次の満月の日まで生死の間をさまよい続ける。その身に宿した妖怪が息絶えるのが先か、あるいは宿主の命が尽き果てるのが先か。それは鎌鼬にもわからないし、そもそも関心など持ち合わせてはいない。

三日三晩生死の間を彷徨ったあと、小村は病院のベッドの上で目を覚ました。

「おどろきましたわ、演奏中に突然倒れるものですから」

「これでもう、僕の名声は尽き果てた。もうピアニストとしては失格だ。君は自由だね。もう僕の世話をする必要もなくなったわけだから」

「そうね、だけどあなたにはまだ誰かの介抱が必要なんじゃないかしら」

「財産が目当てなら、介抱などしなくたって、全てくれてやるよ。女中のB子ちゃんと一緒に、うまく分配するといい」

「あら、そう。だけどあたしも行く宛てがないから、あなたと一緒にいてあげる」

「視力のことなら心配ないよ。だって、倒れた拍子に、頭の中で、目の神経が繋がったみたいだから。まだおぼろげにしか見えないが、君の輪郭も少しは確認できる」

「だけど、あなたは倒れた拍子に大切な背骨を一欠片失ったのよ。もう、歩けやしないんだから。それどころか、手だって動かせないんだもの。きっと誰かの助けが必要なはずよ。だから、あたしが側であなたのことを看てあげるわ。だって、あなたにもそうするしか生きる方法はないのだし、あたしもこれからどこへ行っていいのか判らないんだから」

……。

ピアノ妖怪 おしまい

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♪怖い話集「かまいたちとノヅチと」  不定期更新



大阪福島福島区)のグルメな豚肉料理居酒屋|豚・鍋の天才 "とん彩や"

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