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――続き。


 有田武雄の名に知名度がついてまわればまわるほど、それに伴って厄介な物事も増えた。警察の本庁やテレビ局には、有田がまだ▽署の交通課に勤務していた際に働いた悪事を糾弾する声が、匿名で多数寄せられた。

例えば、

〝近年、新しいヒーローとして、各方面で露出している有田武雄の本性は、実は悪魔です。以前、あと一点の違反を重ねれば免許停止となってしまう私が、巡査長時代の有田氏にたった五キロのスピード違反で検挙された際、パトカー内に閉じこめられ、免許の無事と引き替えに、男性の性欲を慰める行為を強要され、その時私は泣く泣く承諾いたしましたが、私は、当時の心の疵が未だに癒えずに困っております。彼の本性が、警察官という立場をただ利用しているだけの悪として、何時の日か糾弾される日がくることを、心より祈っております〟

またある投書によると、

〝以前、私は、仕事へ出かける途上、目覚めの缶コーヒーを買うために、自動販売機の前に車を停めた際、ほんの僅かな駐停車禁止をきっかけとした理由に、有田氏により、取り調べを受けた者です。その時、前日にあった会社宴会の影響により、少々二日酔い気味であった私は、酒気帯び運転の弱みを有田氏に握られてしまい、その結果、数年間もの期間にも及び、会社の経費を用いてのあらぬ接待を強要され、酒だの女だのといった即物的な利益供与を強いられ続けて参りました。当時私は課長試験を目前にしている立場にあり、そういった要求を断ることが出来ずにおりましたが、今般、所属していた会社を辞職する決意を固めたため、かかる投書を決意した次第でございます〟――

たいていの場合、投書は匿名により届けられるため、警察内部においても、各方面のメディア関係者内部においても、これらは有名人に対する謂われのない中傷揶揄として、難なく処理されるのだった。

しかし実際に起きた出来事は事実として消えたりはしない。

以前、ぎりぎりの黄色信号で有田のパトカーに捕らえられた、荷物の配送員は、トラックで有田の部屋へ届け物を配達する際、今や有名人となった彼の姿に気がつき、こんな風につぶやいた。

「テレビを見るたび、いつも何処かで遭った気がすると思っていたが、やはりあんただったか。あのとき、あんたが俺に何を強要したか、覚えているかい?」

「さ、さぁ……」

「あんたは覚えていなくても、俺は覚えているのだ。まぁいい。これで住まいは覚えさせてもらったぞ……。ウ、フ、フ…」

また違う日、ピザの宅配員はこんな風に言い残した。

「あんた、俺の顔を覚えているか」

「え……?」

「このクソ野郎め。俺は知っているぞ。あんたが本当は悪党だということを…」

「……」

俺の知らない相手が俺のことを知っている……。

――。

「どうした、有田武雄警部補。願いを叶えてやったというのに、非道く悩ましげな顔をしているではないか」

「貴様はあの時の蛇人形……俺はまた幻を見ているのか」

「夢だなどと、何を素っ頓狂な。だいいち力を寄越せといったのは君ではないか。そして願いは現実のものとなったのだぞ。なのに、なぜ嬉しそうにしないのだ」

「貴様は一体、俺に何をほどこしたというのだ……。俺が望んだ力というのは、こういう種類の力ではないのだ」

「ナヌ。しかしもう手遅れだ。こうなってしまえば、もう我々にでさえどうにも手の施しようがないのだ」

「無責任な! そういえば、貴様には何か目的があるといっていたな。その目的とは、いったいどういう目的なのだ」

「君に話したところで理解はできまい。ともかく君は外れだったようだね。残念」

「俺はこの先どうすればいいというのだ」

「知るか。好きにすればいいのだ」

「待て、待て、待て―――」



お面妖怪




 

見るに見かねたカマイタチが彼をいよいよ斬りつけたのは、その夜の事だった。人の中に巣食う妖怪は、のちに鼬だけでなく生けとし生きるもの全ての存在を脅かしかねないのである。

カマイタチに斬りつけられた人間は、次の満月の日まで生死の間をさまよい続ける。その身に宿した妖怪が息絶えるのが先か、あるいは宿主の命が尽き果てるのが先か。それは鎌鼬にもわからないし関心を持ち合わせていない。ただ、人の中に救う妖怪を人と同時に斬りつけるのみである。

三日三晩生死の間を彷徨ったあと、有田武雄は病院のベッドの上で目を覚ました。



「有田警部補。あなたが死んだ主人の名前を利用して、たくさんの架空債権をうちに遺したことについては、すでに聴かされていますわ。他にも、たくさんの人を不幸にしてきたみたいね。理由は訊ねませんが、あなたは悪党よ。死んで当然の人間ね」

「…………」

「だけどまだ生きているんだから、その罪は償ってもらわなければ」

「……、……」

「その顔じゃ、テレビに出るどころか、人前にでることすら無理ね。気味が悪いったらありゃしないわ。警察の仕事なんて、当然無理よ。だいいち、体自体もパック詰めにされたアンコウみたいじゃないの。ほぼ人間の形はとどめていないわね」

「…」

「だけど安心して。今後、あなたの面倒はあたしが看てあげるから。警察にはそういう風に話を通しておいたから。あなたに振り込まれる治療費や、あなたに降りる警察官としての恩給も、すべてあたしが管理してあげる」

「頼む……殺してくれ」

「いやよ。だって、あなたは、あたしのいとしい主人を殺した張本人なんだから」


お面妖怪
終わり

お面妖怪 1

お面妖怪 2

お面妖怪 3

お面妖怪 4

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