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変身妖怪



猛烈レンジャーといえば、小さな子を持つ家庭人であれば誰でも知っているヒーロー番組である。〝猛烈レンジャー〟は赤、青、黄、桃、緑と五色の仮面を被った五人組みの男女で構成されている。テレビの中で彼らは超人的な活躍ぶりで悪を退治し、地球の平和のために命を投げ出すことすら躊躇しない。

今年で17を迎える俵田少年が初めて経験したアルバイトは、そのヒーローの中身となり、テレビで顔なじみとなったヒーローを演じて躍動するスタントマンの仕事であった。いわゆるスーツアクターと呼ばれている職業である。

大きなショッピングモールや遊園地を得意先に抱えている興行団体が、日曜日や祝日など世間が休暇をとっている日に猛烈レンジャーショウを開催し、子連れの家族を相手にした客寄せの手伝いをする。

人間の姿をしているレンジャー部隊の隊員が、手で印を結びながら「トゥラ~ン」とか「フゥ~リッヒ」などと呪文を唱えると、ただの人間が、たちまち仮面を被りマントを羽織った超人類の姿へと変身するのである。

大人が観ると馬鹿らしいが、終幕を迎えた猛烈レンジャーの隊員達が舞台から去ろうとすると、

「イヤ、イヤ、行かないで、帰らないで」

とか、

「将来あたしをお嫁さんにしてください」

などと、見物に来ている子供達からは、彼らの退場を惜しむ声が会場内に殺到するのである。

どの子供も全て真剣な眼差しをしている――。



俵田少年が年上の彼女と知り合ったのは、とあるデパートの屋上で開催された猛烈レンジャーショウでのことだった。ベビーシッターの仕事をしている彼女が、聞き分けのなさそうな3歳前後の幼児を連れてデパートへ食材の買い出しに来ていたことが出会いのきっかけとなった。

彼女が子供のおむつを交換するために間違えて入った部屋が猛烈レンジャーの楽屋であった。道に迷った若い介護士を正しい部屋へエスコートしたのが俵田少年だったというわけである。

女は俵田少年と初めて会ったとき、二つ年下の彼にこんな風なことをいった。

「あなたって、まるで本物のヒーローのようね。テレビのヒーローは、道に迷っただけの子連れの女をわざわざここへ助けにきてくれなどしないわ」

「よかったら、私のメールアドレスを教えて差し上げましょうか。呼んでくだされば、いつだって貴女の前に駆けつけて現れてみせますよ」

そうして十七になる年の夏、県立床豚高校2年B組の俵田守は、男として一皮剥けるチャンスを手に入れたわけである。――



二人が逢瀬を交わすのは決まって俵田少年が猛烈レンジャーの恰好をしたままというのが暗黙のルールとなっていた。

「中で出したって構わないのよ。だって私、生まれつき子供のできない体にできているそうだから」

「あなたとなら、いっそ子供ができたってかまいやしません」

「高校生のあなたがそんな無責任なことを言っては駄目」

「無責任なんかじゃありません。だって、私はあなたを真剣に愛しているのですから。あへぇあへぇ」

彼女と出会って以来、内気で目立たなかった俵田少年は水を得た魚のように生き生きとなった。自分にだけ上陸をゆるされた島を手に入れたことが、俵田少年に男の甲斐性をつけさせたのである。

そしてある日のこと……

続く――

変身妖怪 2


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