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不動産ものサスペンス くらきかお13

大阪と名古屋を繋ぐ名阪国道は、伊賀市を主な経由都市とした自動車専用道路である。その天理東ICから福住ICにかけて連続する縦横の急勾配は通称Ωカーブと呼ばれ、一般的な利用者からは危険な区間として煙たがられているのだ。

しかしその一方で、準高速道路の体裁をなした道路条件の随所に存在する急カーブの数々は、最小曲率半径一五0メートルにも達し、スピードフリークスと呼ぶべき人種からは別名「魔のカーブ地帯」と呼ばれ親しまれてもいる。本来ならば時速六0キロメートルが道路構造令の下限設計速度とされている急カーブを、時速一八0キロメートル超の速度で進入する際、本宮勇二が危惧していたのは、なにも砂利や落下物等の存在によりタイヤのグリップ力を失うことでもなければ、車体をバンクさせた状態のまま急制動せねばならない事態が発生することでもなかった。

上本町の自宅から伊賀市寺田に所在する西田邸まで、高速道路と名阪国道を経由するルートはぴったり一00キロメートルの距離にある。前回このルートを使った際にはじき出したタイムはA分B秒であったため、当時の平均時速はほぼαキロメートルあったことになる。しかし、この日奈良県小倉のIC付近にあるレーダー式オービスをぎりぎりの適正速度で回避した直後、五月橋と治田インターの間にある奈良県と三重県の県境を超えた時点でタイムはC分D秒であった。

今日は運よく道も空いている。

このままいけば、新記録樹立の可能性も見えてきそうだった。

もっとも、このままクジラの群れのような大型トラックの併走に遭遇し、進路を阻まれさえしなければの話だが。あるいは、まるで獲物を探す人食い鮫のように周辺を徘徊している覆面パトカーを前方に発見することさえなければ。

六段リターン方式の変速ギアを四速に入れたままエンジン回転数を一秒あたり一万回転のところまで引っ張った時点で、速度はまさに時速二四0キロメートルを越えようとしていた。経験によれば、排気量一一00ccを越えるホンダのフラグシップは、最高時速三00キロメートルを捻出することも不可能ではない。

もっとも、これから会いに行く相手の顔を思い浮かべると、アクセルをそれ以上開ける気分になれそうもないが。

だいいち、空を飛ぶにはこの道路は少々幅員が狭すぎる。ふと、父が警告の代わりによく聞かせてくる昔話を思い出した。父の話によればかつてこの道路は、中央分離帯の存在しない暫定二車線で開通された一般国道であり、一九六九年に西名阪道が開通し、一九七0年に東名阪道が開通した後、一九七七年に四車線化工事が完成するまでの間、片側一車線対面通行の方式が採られた準高速道路であった。当時はオービスやNシステムといった自動取締装置の存在もなく、よって違反者の数や死亡事故の件数も、多い時で今の数十倍に昇ったという。

従兄が遭遇した事故は相当酷かったと聞かされているが、今は一体どのような姿になっているのだろうか。それを思うと少々寒い気がしてこなくもない。

淀川水系一級河川服部川を渡る服部川橋が見えてくると、長閑な水面の手前に中瀬インターチェンジが見えてきた。従兄の藤谷守が住む西田邸は、このインターチェンジを降りてすぐのところにある。

事故を起こしたと聞いて以来この数年、本宮勇二は藤谷守と正月の挨拶すら交わさない状態が続いている。

従兄と最後に顔を合わせたのは、たしか勇二の大学進学が決まった頃のことだ。その当時、従兄がひときわ派手な祝いを催してくれた記憶が勇二にはまだ新しい。しかしある日突然事故に遭ったと知らせを受けて以来、仕事でちょくちょく付き合いがある筈の父、本宮忠ですら西田守の名をまるでその存在を隠しているかのように口にしなくなった。

元来、本宮勇二にとって、藤谷側の親戚付き合いはどこか息苦しいものがあった。藤谷家の面々には、親戚付き合いにすら利害関係を持ち込まねば気のすまない性質がある。それは血のせいなのだろうか。何が原因にせよ、それが勇二に閉塞感のようなものを感じさせていることだけは確かなのだった。そんな中、ただ一人従兄の存在だけは藤谷側の親戚の中でもどこか異彩を放っているはずだったのだ。

凶暴な男ゆえ近づきにくい部分ももちろんあるのだが、損得勘定を抜きにした面倒見の良さが、目下の親戚として他の誰よりも接しやすいのだった。バイクに乗るようになったのも従兄の影響だった。もっとも、母である静子の場合、勇二が札付きの不良である守との付き合いを好む姿を良しとはしていないようではあったが。

寺田の西田邸に到着すると、服部川の川縁で藤谷守が闘鶏用の鶏に餌を与えている姿が目に入った。

「早かったじゃないか」と藤谷守は従弟の到着を歓迎した。少なくとも、見た目には歓迎してくれているように見えた。「相当とばしてきたとみえるな。河原の砂利が溶けたタイヤのあちこちにへばりついているぞ」

本宮勇二はヘルメットを脱いだ。

「新記録を樹立したよ守従兄さん。家を出る前に電話をかけたろう。その時刻からここへ到着するまでの間、ぴったりE分だ。平均時速は優にβキロ超。これで従兄さんの記録は俺が塗り替えたことになる」

「そうか」

藤谷守は麦わら帽子を被った恰好でいた。

色眼鏡と日除けのつばが邪魔で表情はよく見えないが、白い歯を見せている様子が判る。

どうやら笑っているらしい。

「今日樹立した記録のことは、くれぐれも父さんには内緒にしておいてくれよな。ばれたらまた口うるさいから」

「そんなことより、今年はどうだったんだ」

「どうだったというと?」

「とぼけるな。お前が今年も司法試験を受験したことについてはすでに叔父さん伝手に聞いている。その択一試験とやらが今月の一二日にあったはずだろう。そいつの手ごたえについて訊ねているんだ」

「ああ受けたよ。今年はたぶん合格している。かろうじてだけど」

「ではあとは論文試験と口述試験を残すのみか。それを突破すれば、お前も晴れて弁護士先生になれるってわけだな」

「正確にいえば、四月に司法修習生となったあと、そこから1年六ヶ月間続く実務研修期間中に二回試験ってやつを突破しなきゃならない」

「一年六ヶ月だと? お前はたしか今年で二六歳になるんじゃなかったか。てことは、弁護士として世に出る頃には三十歳手前を迎えているってわけか」

「……最短でそういうことになるね」

「これは気が重いな。バイクでもかっ跳ばさなきゃ、やってられないか」

藤谷守は麦わら帽子を脱ぎ、空に笑っている。

「何が可笑しいのか分らないけど、ともかく元気そうでなによりだよ。もう何年も顔を合わせていなかったからさ」

「そうか、そりゃ、心配をかけてすまなかった。なにぶん、傷が癒えるのに時間を要したもんでな。それで、今日はここへ何をしにきた。択一試験に合格している自信があるなら、お前は次の論文試験の準備で忙しいはずだろうが」

「実は今回のことだけど、これから俺も手伝うことになったものだから。ほら、例の件さ。幸一郎伯父さんの相続問題。そりゃあ俺には荷が重いってことは分っている。だけど俺は父さんの会社で居候をしながら勉強させてもらっているわけだから、人手不足だと言われれば、手伝わないわけにはいかなくなってしまって……」

「ほう」

「……というわけで、今日は俺が藤谷興産の仕事を手伝うにあたって、そのせいで守従兄さんが気を悪くしたりしないかどうか、事前に伺いにきたというわけなんだ」

「何故俺が気を悪くするというのだ。親の手伝いをするのは子のつとめだろう」

「けれど、俺としては藤谷興産の事務所に出入りするのに、守従兄さんの許可だけは仰いでおきたかったものだから」

「よし、では許可するとしようじゃないか」

「よかった」と従弟は胸をなでおろした。「ところで守従兄さん。俺たちの親戚の中に女の弁護士が一人いると聞いたんだけど」

「ああ、令子のことだな」

「初めて耳にした名前だ。いったいどういう人なの」

「霞の妹。つまりお前の従姉ということになる」

「それぐらいは分っている。俺がききたいのはそういうことじゃないさ」

「ではどういうことだというのだ?」

「……詮索するわけじゃないけれど、守従兄さんが幸一郎伯父さんと交わしていた養子縁組を解消するつもりでいると、父さんから聞かされたよ。しかも、わざわざ日付を相続が発生する以前に遡らせてだ」

「その通りだ。なにせ結果がこの様なのだからな。藤谷幸一郎の跡を継ぐには、俺では力不足だったというわけだ」

「じゃあこれからどうやって生きていくのさ」

「さてどうするかな。田んぼや畑をたくさん集めて、百姓にでも精を出そうかと思っているところだ。似合うだろう。そのためにこの麦わら帽子を用意したというわけだ」

「百姓だって? 狂犬と呼ばれていた従兄さんがかい」

「そうだ悪いか」

「悪いとは決していわないよ。だけど他にも道はあるような気がするからさ」

「どんな道があるというのだ」

「それは分らないけれども……。ともかく何をするにも先立つものが必要なことだけは確かだ。だったら、なにもこのタイミングで縁組を解消せずともいいと俺は思うんだ。だって、幸一郎伯父さんだって守従兄さんにすべてを託すつもりでいたからこそ、わざわざ養子縁組までしたに違いないんだから」

そのとき白のセドリックが西田邸の納屋の前に停まった。

 


昏き貌 14話

火曜とん彩サスペンス劇場 「昏き貌」 目次と人間関係図


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